事例 フルカスタム

形状モデリングが変える計測の未来「おいしさ」を可視化する新次元CTの挑戦

准教授 長井 超慧 様

東京大学 大学院工学系研究科
附属人工物工学研究センター

准教授 長井 超慧 様

PROFILE

スキャン形状処理や計算幾何、コンピュータグラフィックスを専門とし、3次元形状データの再構成やモデリング手法の高度化に取り組む研究者。実世界の計測データを活用した形状解析や設計支援技術の研究を推進している。博士(工学)。

本事例で活用された製品

TXS Portable

TXS Portable

ポータブルマイクロフォーカスX線
CTシステム

低出力X線源90kV/130kV(密封管)を搭載。
小型フラットパネル(低出力用高精細)と組み合わせることで、小型製品の内部構造をクリアな微細画質で観察が可能。
薄板ケース部品、電子部品、小型樹脂製品などの非破壊検査に対応。

導入前の課題

  • 低密度材料は計測できない
  • 境界がぼやけて観察困難
  • 同一素材は濃淡差が出にくい
  • 複合材の内部把握が難しい

導入後の効果

  • タルボ・ロー干渉計の搭載により低密度材料もCT計測可能に
  • 境界を鮮明に可視化
  • 濃淡差の少ない構造も可視化
  • 繊維方向や欠陥も高精度解析

テスコ社との15年にわたる歩み

―― テスコさんとはかなり長いお付き合いだとうかがいました。

長井 超慧 先生(以下 長井先生):はい、非常に長いですね。私が博士課程の学生だった頃から数えると、もう15年以上になります。私の指導教員であった鈴木 宏正 先生(現・名誉教授)が主催されていた、精密工学会の「現物融合型エンジニアリング専門委員会」でお世話になったのが始まりです。それ以来、日本の「形状モデリング」という分野の発展とともに、ずっと協力関係が続いています。

「形状モデリング」とは:精度を追求する学問

―― 先生のご専門である「形状モデリング」について、分かりやすく教えていただけますか?

長井先生:一言で言えば、「物の形をコンピュータ上で扱うための手法全般を構築する学問分野」です。よくCG(コンピュータグラフィックス)と混同されますが、決定的な違いは「精度」にあります。CGはエンターテインメント向けなので、画面上で見た目が良ければ多少のサイズの変化は問題になりません。しかし、私たちの扱う工業製品は、0.1mm単位の精度が狂うだけで部品を組み合わせることができなくなってしまいます。こうした厳密な寸法や構造をコンピュータで正しく扱うための技術が形状モデリングなのです。

CTデータに「意味」を与えるアルゴリズム

―― CTスキャンの装置を使って、具体的にどのような処理を行っているのでしょうか。

長井先生:CTで撮影したデータというのは、実は単なる「2次元の白黒画像の積み重ね」に過ぎません。そのままでは、中身を詳細に調べたり設計データに戻したりすることは難しいのです。 そこで私たちの出番です。白黒画像の中からノイズを除去して綺麗にしたり、重なった複数の部品を切り分けたり、複雑な曲面を解析したりするための「アルゴリズム(計算手順)」を開発しています。いわば、ソフトウェアの「中身の機能」を作っていると考えていただければ分かりやすいかもしれません。

従来の限界を突破する「低密度材料向けCT」

―― 今回導入された新しい装置は、これまでのものと何が違うのですか?

長井先生:最大の特徴は、植物や食品、有機物といった「低密度材料」を鮮明に観察できる点です。従来のCTは金属などの密度が高いものには適していましたが、密度の低い有機物は境界線がぼやけてしまい、十分に観察できませんでした。今回、テスコさんにカスタマイズしていただいた装置には「タルボ・ロー干渉計」という最新技術が搭載されており、これまで見えなかった境界線をはっきり映し出すことができます。

また、通常の「吸収画像」に加えて、屈折を利用した「位相差画像」や、散乱を利用した「暗視野画像」という3種類のデータを取得できるのも大きな強みです。これにより、サクランボの種の周りにある微細な繊維や複合材料の中の繊維の向きなども可視化できるようになります。

「おいしさ」を設計する:食品工学への応用

―― 先生は最近、食品工学の分野にも力を入れているそうですね。

長井先生:はい。CTで食品の内部構造を細かく調べることで、「その食品が人にどのようなおいしさを与えるか」を明らかにしたいと考えています。例えば、エビせんべいの「カリッと感」は、内部の気泡の大きさや生地の厚さが関係していると考えられます。これらを計測データとして定量化し、人の感性と結びつけることができれば、「さらにおいしい食感」を持つ食品の設計が可能になります。これは、今回の新しい計測ツールがあって初めて可能になる挑戦です。

信頼が生んだ「3ヶ月」の強行軍

―― 今回の装置は完全カスタマイズ品とうかがいましたが、開発はいかがでしたか?

長井先生:実は予算の都合で、発注から導入まで約3ヶ月という異例の短期間で完成させる必要がありました。詳細が不明な新技術を、これほどの短期間で形にできるのは、日本国内ではテスコさんだけだったのではないかと思っています。開発中も頻繁に足を運んでいただき、密にコミュニケーションを取れたおかげで、非常に安心してプロジェクトを進めることができました。

未来への展望:技術を広めるフラグシップに

―― この装置を使って、今後はどのような展開を考えておられますか?

長井先生:この装置は、将来的に完全な3次元計測へと拡張できるよう、あらかじめ余地を残して設計してもらっています。また、この技術を私自身の研究に留めるつもりはありません。学内外に広く開放し、多くの企業や研究者に利用してもらうことで、「形を処理する技術」を世の中に広めるためのフラグシップにしたいと考えています。食品、植物、工業製品など、様々な分野でこの新しい計測技術が活用される未来を目指していきたいですね。